べたべた
「おい」
「ん」
「あのさ」
「ん?」
「あんまベタベタくっつくなよ。動きにくい」
「冷てえな。それが恋人相手に言うことか?」
「それが恋人だから言ってんだよなお前の! チンコが! 俺に入ってんのに動けねえから!」
「はっはっは遠慮すんなよ動けって。ロデオは初めてかカウボーイ?」
「ロデオってのは暴れる馬を乗りこなすもんでしがみついてくるコアラを振り払うスポーツじゃねえ。もーいいからお前一回寝てろって、な? 驚異的な腹筋でベタベタちゅっちゅしてこなくていいからマジで」
「いやだ。お前の顔が遠くて寂しい」
「かわいい。ぶん殴りたい」
「複雑な性格だな」
「いやちがうだろ俺じゃなくても誰でもキレるってか思い返せよ今夜お前がこの部屋のドアを開けた瞬間から! 玄関でベタベタちゅっちゅ、料理中もベタベタちゅっちゅ、食っててもベタベタちゅっちゅ、Netflix見ててもベタベタちゅっちゅ、おっぱじめてからもずーっとベタベタちゅっちゅ! 3時間くらい前から言おうと思ってたんだよ動きにくい動きにくい動きにくい!」
「かわいいだろ? 甘えんぼで」
「ぶん殴りたい……助走つきで……ゼロ距離だからそれもできねえ」
「中に入ってる分ゼロマイナス15センチ」
「うるせえ黙れこの野郎。くっそこんなん詐欺だろ。お前ってクソ野郎だからいかにも自分勝手でちょっとサディスティックでスーパーいやらしいセックスしそうなのに、実はただの甘ったれ抱っこちゃんだとは……返せよ俺のスケベな妄想」
「ははは、アテが外れて残念だったなあ? 悔しいか? どうだホットなワンナイトだと思ったら愛情たっぷりのかわいい彼氏を引き当てた気分は?」
「実際悔しい。マジでむかついてる。笑ってんじゃねえよ」
「ふぁふぁふぁひゃめろひゃめろ、お前の好きなハンサムが台無しだろ」
「ファックできねえハンサムなんか食えねえバーガーと同じだ。マジメにやる気ねえなら抜いて寝ようぜもうさあ」
「断る。このままダラダラお前の中に居座りたい」
「うぜえ…………」
「お、絶句か? 黙るか? いいのかニワトリ黙ったらまたそのかわいい唇にちゅっちゅしちまうぞ。ほらがんばれがんばれ」
「お前ほんと夜道に気をつけろよその性格。ずっと思ってたけどお前ってなんでそういうイヤがらせすんの? 俺が好きなんだろ?」
「すげえ好き」
「だろ! そうじゃなかったらぶち切れてるわこんな動きにくい思いして。俺がすげえ好きならなんでお前ケンカ売ってくんの? なんでチンコ入れたがるくせにちゃんとファックしねえの? てかお前もこんなガチガチなのになんで入れっぱなしの生殺しで平気なの?」
「平気じゃない。死ぬほど我慢してる」
「ケツの中で死なれたらトラウマになるから本当にやめてほしい。俺の人生もう足りてんだよ不慮の死とか。だからやろうって、なあ!」
「違う。俺は平気じゃなかった。死ぬほど我慢してたんだ。こんなんじゃ全然足りない」
「は?」
「だって俺には握手しかしてくれなかった。他のやつらにはハグだったのに」
「え?」
「それだけじゃない。トップガンの卒業祝いでどさくさに紛れて肩を組もうとしたら逃げられた。入念にお前を含む範囲の知り合い全員をパーティに誘ったのにお前だけ来てなかった。スクールで初めてお前を見た時、勇気を出して声をかけたのに無視された」
「……全ッ然覚えてねえ。そんなことあったっけ?」
「だろ? 俺がケンカしか売ってないんじゃない。それ以外の時はお前は覚えてもいねえんだよ」
「……」
「俺は――俺はずっとこうしたかった。指先だけでも触れたかった。一秒でもいいから俺を見てほしかった。ほんの少しでいいから、お前の中に俺を入れてほしかった。ずっと」
「……」
「今でも夢なんじゃないかと思う時がある。これは全部俺の都合のいい夢で、手を離したらお前はいないんじゃないかって。いくら触れても信じられない。まだ全然足りない。お前がここにいるって、もうどこにもいかないって、俺に信じさせてくれ」
「……ジェイク。お前そんな……」
「うん?」
「そんなファッキン3歳児みたいな理由で俺をチンコ串刺し生殺しの刑にしてるとか信じられねえ。なんかイイ話みたいにしたけどかまってもらえなくて拗ねてるだけじゃねーかお前30だろ?! 解散解散! さっさと! ファックして! フィニッシュして! 寝たい!」
「はははいいぜやれるもんならやれよ、ほらほらべたべたしてぎゅーっとしてちゅっちゅしちまうぞ。がんばれがんばれ」
「もおおうぜええ!」
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